シーウィンドの「プラ・ヴォセ」で思い出す初めてのフュージョンバンドの話。
僕の大学生活も2か月が過ぎて6月に入り、鬱陶しい梅雨の季節が迫っていた。
前回の昔話(←こちらです)で書いたように、僕は5月の終りに「新人バンド」と称してサークルのミニ・コンサートでベースを弾いて以来、2つのバンドから熱心な勧誘を受けていた。が、両方ともロックをやっているグループで、
「今更高校の時みたいにロックもないだろう・・。」
なんて生意気な事を考えて、やんわりとお断りを続けていたのだ。
今回は、そんな中やっと自分がやりたい音楽が出来るバンドが見つかった事を記事にしてみたいと思う。まぁ、何て事ない話なのだが聞いて欲しい。
僕が所属していた「M」という音楽系サークルは、毎月、月初めに“部会”と称する集まりがあって、基本的にこの日は部員全員が1つの教室に集まりサークルの運営方法やコンサートの日程を決めたり、部費を徴収したりする事が行われていた。
6月の部会に出席した帰り、僕は江古田駅へ向かう道で一人の先輩から話し掛けられた。
「君、フュージョンが好きらしいけど、どんなの聴いてんの?」
そう話しかけてきた先輩は、どう見ても音楽サークルに所属している風には見えない実に地味な風貌の人だった。
七三分けがそのまま長髪になったようなヘアー・スタイルに銀縁の眼鏡を掛けて、グレーのポロシャツに色あせたGパンを穿き、肩から黒い皮の鞄を下げ、何故か手には風呂敷包みを持っていた。
「君、K本君(←オヤジの本名です)って言うんだろう?この前、新人バンドでベース弾いてるの見たよ!俺K田って言うの。キーボード弾いてる3年。よろしくね。ちょっとさぁ~喫茶店付き合わない?コーヒー奢ってやるからさぁ・・・。」
そう言って半ば強引に喫茶店に連れて行かれた事を覚えている。
僕は、
「妙に強引で調子のイイ人だなぁ・・・。」
なんて思いつつ、コーヒーを飲みながら、このK田さんと音楽や楽器やバンドの話をしたのだが、面白い事に僕の音楽の好みとK田さんの音楽の好みが実に近い事が徐々に分かってきたのだ。とにかくK田さんが話題に出すアルバムが僕の好きなミュージシャンのアルバムばかりだったので、非常にマニアックなフュージョン話で盛り上がり、ほんの1時間ほどの間に、僕はK田さんと意気投合してしまった。その上、K田さんが住んでいるのが、成城学園前という駅で、僕の住んでいる下北沢と同じ小田急線沿線と言う事もあり、その日はずっとフュージョン話で盛り上がりながら一緒に帰った事を覚えている。
翌日、再びK田さんに会った時には、
「うちのバンドの4年のベースが就職活動で引退するので、お前代わりにやってみないか?」
とバンドに誘われ、僕の方は、
「多分うちのサークルの中で、自分が好きな音楽が出来るのはココしかない!」
そう思っていたので、二つ返事でバンドに参加する事を了解した。
その日のうちに、
「来週、練習やるからシーウィンドの『プラ・ヴォセ』って曲コピーしてきなよ。そんなに難しい曲じゃないからさ。知らなきゃダビングしてやるよ。」
と、話はトントン拍子に進んで行き、僕は翌週までにK田さんが言ったシーウィンドの「プラ・ヴォセ」という曲のベースをコピーした。
偶然にも少し前に、僕は高校時代の友人のバンドが、この「プラ・ヴォセ」を演奏するのを聴いて、
「おお・・、いい雰囲気の曲じゃない・・。」
なんて思っていた事があり、知ってる曲の強みからか、小一時間で簡単にコピーした事を覚えている。
さて練習当日。まずK田さんは僕にバンドのメンバーを紹介してくれた。ギターが2名いてI沢さんとS籐さんで2回生と3回生。ボーカルとシンセサイザーは共に女性で、武蔵野音大4回生のS浦さんとN本さん。ドラムが何と16歳の高校生のK嶺君。K田さんがピアノで3回生。1年坊主の僕がベースと総勢7名編成のバンドであった。
早速「プラ・ヴォセ」を練習したのだが、正直言ってこの時の僕は、自分の演奏云々よりも、周りのメンバーが出す音に感動して鳥肌が立っていた思い出がある。とにかく全員の出す音が洒落ていて、とてつもなく上手い。それまでロックしか演奏した事がない僕にとっては、正に夢見心地で、フュージョンを演奏できる喜びが体中に溢れ、『うひゃひゃのひゃ~状態』(←要するに嬉しいという事なのだ。)になっていた。
こんな風に話すと実にオーバーに聞こえるかも知れないが、高校2年の頃からフュージョンバンドに憧れて、その後の浪人時代をなんとか切り抜け入学した大学のサークルでやっと自分の居場所が見つかった訳で、とにかく筆舌に尽くし難い喜びがこの一瞬にあった事を覚えているのだ。
細かい話をして申し訳ないが、まずは高校生のK嶺君のドラムが無茶苦茶上手い。そしてギター2名のカッティングの多彩さ、K田さんの弾くローズピアノのセンスの良さ、N本嬢のシンセサイザーの雰囲気の良さ、ボーカル以外でもフルートを自在に吹くS浦嬢の器用さ、そしてK田さん、N本嬢、S浦嬢の3人のコーラスのカッコ良さ・・・、とまあ、言い始めたらキリがないほど彼等の演奏はハイレベルでカッコイイものだった。
2時間ほどの練習が終り、ボンヤリしていると、ギターのS藤さんから、
「もっと自由に弾いていいんだぞ~。コピーそのままじゃ、固い固い!」
そんな事を言われた事を覚えている。僕は心の中で、
「やっぱり大学生の音楽レベルは全然違うわ・・。こりゃ、このバンドは凄いぞ・・。やっと俺の願いが叶った・・・。」
そんな事を考え、
「うっしゃ~、こりゃ真面目にベースを練習するぞ、このバンドのレベルに俺のベースも早く追いつかなくては!」
と1人鼻息を荒くして、意味も無く体に力が入っていたような記憶があるのだ。
さて、そんな事を思い出しながら、久しぶりにシーウィンドのアルバム「海鳥」を全部聴いてみました。
中でも「プラ・ヴォセ」は特に意識して聴いてみたけれど、今聴いても実にイイ曲だと感じる。イントロのローズピアノとベースのハーモニクス奏法が生み出す幻想的な雰囲気、甘いスキャットとフルートの洒落た音、全体から感じる海のイメージ、と言い始めたらキリがない。
そして「プラ・ヴォセ」ばかりでなく、この「海鳥」というアルバム全体から、
「これって、当時流行りのサーファーの音楽だよなぁ~。こういう曲が街に流れて、誰もが雰囲気に浸っていた時代が確かにあったよなぁ・・・。」
なんて事を鮮明に思い出させてくれたのだ。
僕にとって「プラ・ヴォセ」という曲は、初めて演奏したフュージョンナンバーである事以外にも、当時の息吹をビンビン感じさせる名曲であり、いつも心の底のどこかで流れているような気がする曲なのだ。
さて話は変わるが、僕はその後の約2年間、少々のメンバーチェンジがあったものの、基本的にはこのメンバーとバンドを続けてゆく事になる。
今後、昔話を進めてゆく上で、しばらくの間、このバンドの話が頻繁に出てくると思うので、是非、御見知り置きを願いたい。
ではまた・・・。
SEAWIND - PRA VOCE
[Music Seawind]
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フィージョンとは縁がなかったけど
ボサっぽくてさわやかで聴きやすいですね!
東京という街にフィージョンは合ってるんですよ。
大阪はやはりソウルやブルースがぴったりです♪
>まり様
ソウルやブルースがぴったりって事は、
イメージとしてよく分かる気がします。
大阪の方が人間臭い気がしますよね。
あらためまして、こんばんは。
えーっと、海鳥の曲は僕も大学時代にやったことありますよ。
先輩から借りたフルートを吹きました。
フルートって運指はサックスに近いのですが、やっぱり発音方法は全然ちがうので大変。
結果は大恥でした(笑)。
>なちゃ様
再びコメントありがとうございます。
で、フルートの運指がサックスに近いって事、初めて知りました。
なるほど・・・です。
そういえば、僕もこのアルバムの他の曲を演奏した事あります。
こんにちは~
もうホントフュージョンの典型って感じの音楽ですよね。当時はフュージョンこそこの世で最高の音楽!って思っていました。まあ、いま聴いてももちろんいいですが。
フュージョン・バンドやってたんですね。かっこいいですね。
女の子にモテたんですか~?
>pooh様
女の子にモテたいからフュージョンやってたの。
似てるけど、全然違うの。
あ~あ・・・、情けない・・・。