イエスの「ラウンドアバウト」とベーシストY川君の話。
学生の頃というのは、それまでは、話した事も無かった奴と、突然、意気投合してしまう事がある。
僕にとっては、中3になって、急速に親しくなった、Y川君がそうだった。
少し前に、キングクリムゾンを聴いて、プログレッシブロックに、興味を持っていた僕は、
「プログレの世界には、もっともっとすごいやつらが、おるがぞ~。」
という事は、なんとなく分かっていた。
「ほんなら、どのバンドが、すごいがなや?」
という疑問に、答えを出してくれたのが、Y川君だった。
「プログレ好きなが?イエス聴いてみや~。まあ、ラウンドアバウトあたりがカッコえいかな~。」
みたいな事を、休み時間に言われて、貸してもらったアルバムが、イエスの「こわれもの」だった。
このアルバムは、本当に驚いた。びっくり仰天した。
「何が、どんなにぜよ?」
と、言われても、非常に、説明に困るのだが・・。
まず、イエスは、それまで僕が聴いてきた、歪んだ音の、ギター中心のバンドではなく、個々の楽器が、強い個性を持って、それらが、上手くミックスされたバンドだと感じた。
文章で表現するのは、難しいけれど、感じた通りに書くと、軽やかなドラムの上に、不思議なベースラインが乗っかり、その上に、歪みを抑えた、ストレートで、かつ、丸みを帯びた音のギターと、様々な音色のキーボードが、対等に、バランスをとっている。そんな不安定な、逆三角形のような構造に乗っかって、美しいボーカルが、気持ち良く流れてゆくのだ。
「こわれもの」には、ハードな部分も、ソフトな部分もある。楽しくも、悲しくもなるし、不安にもなる。ロックも、クラシックも、ジャズも、カントリーも感じる。それぞれの曲の個性が光っている上に、アルバム全体で、一つの作品になっている。
「これがイエスの世界ながや~。こんな事が出来るがや~。こりゃすごいぞ~。おいおい~えらい事や~。」
と、思ったが、簡単に興奮するのは、カッコ悪いので、冷静に
「結構えいやん。わりと気に入ったで。」
なんて言いながら、翌日LPをY川君に返した。
Y川君は、その頃ベースギターを弾いていて、プログレばかりか、楽器の事にも詳しかった。
「ギターのスティーブ・ハウが使いゆうのは、ギブソンか、マーティンのアコースティックで~。」
とか、
「ベースのクリス・スクワイアーは、設定を変えたアンプを、同時にステレオで2台鳴らすがぞ。」
とか、
「クリス・スクワイヤーは、身長が2メートル以上あるぞ。(←これは、楽器じゃないぞ!おい!!)あいつは、でかいぞ~。」
とか、まあ、いろんな話をしてくれた。
中でも、キーボード関係には強く、
「キーボードのリック・ウェイクマンが、演奏しているのは、ポリモーグや!」
とか
「これは、メロトロンや!」
とか、宇宙人みたいな楽器名を、僕に色々と教えてくれた。
僕は、すっかりイエスにはまってしまい、次々に、イエスのアルバムを借りては、聴くようになり、驚異的なテクニックと、どんな曲でも個性的に弾きまくるギタリスト、“スティーブ・ハウ”の虜になった。
友達には、
「俺の事は、スティーブ・ハウと呼んでくれや!。」
なんて、半分冗談、半分真面目(←恐ろしいぞ!)に言っていた。
そして、学校の体操服の、背中一面に“Steve-Howe”と、落書きをするに至っては、馬鹿を通り越して病気だった。(←当時、僕の学校では、体操服に、名前を書くついでに、皆、結構マジックで落書きをして喜んでいた。)
さて、今改めて聴いてみると・・・。
と、言いたいけれど、「こわれもの」は、この歳になるまで、折に触れ何度も聴いてきた。それだけ、ずっと大事に思っているアルバムなのだ。特に「ラウンドアバウト」は、高校生の時、ギターで演奏し、大学生になってベースで演奏している。異なる楽器で、同じ曲を人前で演奏した事があるのは、この曲だけだ。
「ラウンドアバウト」を聴くと、今まで僕が聴いてきた音楽は、底の方で、この曲に全部繋がっているような気がしてならない。
中高時代、大学時代の仲間の顔や、当時の情景がポッ、ポッと頭に浮かんでくる。一曲で、これだけたくさんの情景が浮かぶ曲は、他にはない。
僕は、これからも、折に触れて、この曲を聴いていこうと思う。
「それにしても、Y川君、今頃何をしてるだろうか?20年以上会ってないぞ・・・・。」
Yes : Roundabout
[M;Yes]