6月になると、夜もTシャツ1枚でウロウロ出来るので、梅雨とは言いながらも、気持ちが良い。もうすぐ僕の大好きな夏がやってくると思うと、嬉しくてしょうがないのだ。まあ、そんな事を言いながらも、いざ夏になると、「暑い」だの「夏バテ」だのと騒ぐのは毎年の事なのだが、寒くて辛い思いをするのと比べれば、断然暑い方が僕は好きなのだ。
さて、先週の土曜日の夜は女房が夕方から小学校のPTAの懇親会に出かけて家を空けていたので、オヤジと子供達は簡単な夕食を済ませ、比較的早い時間からてんでにのんびりと過ごしていた。僕は缶ビールとピーナッツを持って書斎に行き、毎度の事ではあるが、新聞を読みながら音楽を聴く体勢になった。

CDの棚をゴソゴソと漁って、引っぱり出したのは、
アート・ペッパーの
「サーフ・ライド」というアルバムだ。
ま、いくら夏が好きだと言っても、このジャケットから、夏が来る喜びを感じてしまうほど僕はアホじゃない。昔から思っているのだが、このアルバム、ホントすごく変なジャケットで、見れば見るほど薄気味が悪い。今回取り出したのはあくまでも中身が気に入っているからなのだ。
アート・ペッパーと言う人のアルトは、曲によって様々な表情を見せて面白い。ある時は物凄い
アドリブをたたみ掛けるように吹きまくるかと思えば、これ以上無いような抑制が効いて、それでいて耽美な世界を作る。
そんな中でも僕が最近勝手に
「普通のアート・ペッパーが聴ける」と思っているのが、この
「サーフ・ライド」なのだ。新聞読みながら流す音楽は、やたらと耳につくのは困る。あまり意識せずに聴けて、それでいてレベルが高くなくてはいけない。そんな考えから、まずは
「サーフ・ライド」を流し始めた。
こういう夜は気持ちがいい。実にビールが美味く感じる。普段はあまり気に止めないような新聞の細かい記事も、じっくり読むと面白くて、新たな発見があったりする。充実した時間が過ぎてゆくのだ。机の上に足を投げ出して、
「お~っ、気持ちエエの~」 なんて思っているうちに、
「サーフ・ライド」が終わった。
既に、夕食の時から飲み続けていたビールで、すっかりイイ気持になり、新聞にもそろそろ飽きてきたので、ここら辺で気合いの入った演奏が聴きたくなる。僕はキッチンに行って、ジョッキにたっぷりの酎ハイを作り、書斎に戻って
渡辺香津美の
「スパイス・オブ・ライフ」を聴き始めた。

実は
「スパイス・オブ・ライフ」は、
渡辺香津美のアルバムの中でも1、2を争うぐらいのお気に入りなのだ。理由は単純で、
渡辺香津美のギター以上に
ジェフ・バーリンのベースプレイが物凄いからだ。
「超テクニシャンとは、こういう人の事を言うのだな~。」 とつくづく思い知らされる。
その上ドラムが
イエスや
キング・クリムゾンで活躍した
ビル・ブラッフォードという話題性もあり、このたった3人だけで造り出す音の世界は、ちょっと無いぐらい大きく、広く、カッコイイのだ。
渡辺香津美の幻想的なギターのバックで、タイトな8ビートを刻む
ビル・ブラッフォードのドラムと、複雑なベースラインをたたみ掛けるように聴かせる
ジェフ・バーリンのべースにノックアウトされそうになる。
ついつい興奮して、酎ハイをグビグビ飲んでしまい、ますます酔いが回ってきてイイ気持ちになる。挙句の果てにベースを取り出して弾き始める。当然、流れているアルバムのべースラインとは月とスッポン・・・・ と、この辺で正気に戻った。
「イカン、イカン・・・。興奮しすぎた。それにしても、カッコエエのぅ~。」 なんて思いながら、暫く真面目に演奏に耳を傾けているうちに、
「スパイス・オブ・ライフ」は終了した。
「次は何を聴こうかな~?」 と考えていると、電話が鳴る。女房からで、
「2次会のカラオケに行くので遅くなるね~!」 との事だ。時計を見ると10時前。いやはや、土佐の宴会は女であろうと、まだまだ宵の口。ガンガン行くのだ。
「せめて、今日中には帰ってこいよ~!」 と言って、電話を切り、僕は再びキッチンへ向う。オヤジの酒はしつこいのだ。今度はウイスキーとチョコレートを持って書斎に戻ってくる。

夏が近づいているという意識があったせいかも知れないが、次は
ゴンチチの
「南国音楽 Resort Music Series」を聴きながら、前日に図書館で借りてきた1冊の写真集を眺める事にした。この写真集は
「海月(くらげ)」という題名で、マリンブルーの海に漂うクラゲの写真ばっかりが、次から次へと載っている。クラゲと聞けば気持ち悪いが、実際の写真は溜息が出るほど美しく幻想的だ。特に夜の海を漂うクラゲの写真は此の世の物とは思えない程なのだ。僕は
「南国音楽 Resort Music Series」は、まさしく夏の海のリゾートを彷彿させるアルバムだけに、クラゲの美しい写真と妙にマッチしていると感じてしまった。
それにしても、
アコースティック・ギターのデュオで聴かす
ゴンチチの音楽は本当に癒される。ギターのスチール弦の音が、これほど気持ちのいい物だと知ったのは、
ゴンチチのアルバムを聴いてからの事だと思う。
ゴンチチのアルバムと、クラゲの写真集と、ウイスキーがあれば、気分はリゾートだ。我ながら実に安上がりな事だと思ったが、音楽の楽しみはこういう所にあるのだ。ますます夏が待ち遠しく思えて、写真集片手に、
「この夏も三男坊をプールに連れて行かねば・・・。」 とか、
「今年もよさこい祭りが楽しみやな~。」 とか、
「高知市の花火大会は晴れるといいなぁ~。」 とか、
「夏休みに家族で旅行でもするかな・・・?」 などと、まあ、実に小市民的な楽しみに思いを馳せているうちに、椅子に座り、机の上に足を投げ出したまま居眠りをしてしまい、フッと気が付くと、長男が僕を揺すっている。
「おい!オヤジ、ちゃんとベッドで寝ろよ!」 そう言われて、時計を見ると11時を少し回っていた。
僕は、グラスや空き缶やピーナッツが散乱した机を片付けて、歯磨きをして、すぐに布団に入った。
酔いも手伝って、眠るのに1分もかからなかった。結局
ゴンチチの
「南国音楽 Resort Music Series」は最後の方の記憶がない。また今度聴く事にしよう。
そうそう、女房は日付が変わって、少しして帰ってきたようだ。御苦労様だ。
[Music Art Pepper] [Music 渡辺香津美] [Music ゴンチチ]