高1の夏休みの終りに、僕達はバンドの合宿を計画した。場所は高知市から1時間ほど離れた僕の実家の近くにある神社の社務所で、数日間無料で貸してくれるとの事だった。
叔母さんに頼んで、軽トラックでドラムセットやアンプ類、キーボードなどを実家へ運んでもらい、そこから山の上にある神社まで皆で楽器を運んだ事を思い出す。
秋口に何組かのバンドが出演するコンサートを控えて、集中的に練習しようと思った事もあるが、今考えると、単に、
「コンサートに向けて、皆で合宿をする!」 という事をしてみたかったんだと思う。
その頃のメンバーは当初のメンバーから少し変っていて、元々ベースのK藤君がボーカルになり、代わりにプログレに詳しいY川君がベースを弾いていた。
この合宿の練習曲のメインは、
レインボーの
「キル・ザ・キング」で、僕達はコンサートの1曲目で、この曲をぶちかましてやろうと考えていた。
「キル・ザ・キング」は、ギターの
リッチー・ブラックモアとドラムの
コージー・パウエル、ボーカルの
ロニー・ジェームス・ディオの三人がレインボーに在籍していた、油の乗り切った時期の代表曲で、気持ちの良いスピード感が特徴の曲だ。
僕がこの曲を演奏したいと思ったのは、かっこいいのはもちろんだが、ちょっと前にレパートリーに加わった
ディープパープルの
「紫の炎」がわりと上手くいった経験から、
「うちのバンドは、ドライブ感のある曲が向いているんじゃないか?」 と、思っていたからだ。
まあ、そんな思いもあり、合宿の数日間で、この曲が演奏出来るようになった記憶がある。
この合宿の日々は、そんな事以外、あまり記憶に無いのだが、一つだけ頭にこびりついて離れない事がある。
流れ星の事だ。 合宿中、僕ら5人は枕を並べて寝ていたが、毎晩のように夜更けまで色々と話し込んで、時には明け方まで起きていた。色気づいてきた僕達の話の内容は、8割が女の話だった。
キーボードのI川君が
「俺は秋のライブが済んだらSちゃんに告白するぞ。」などと言い始めると、
「お~そうか、そうか。それはえいにゃあ~。おんしゃあSが好きやったがか?そういえば、なかなか可愛いもんにゃ~」 と、ボーカルのK藤君が話を聞いてやる。
「おう。かっわいいろうがや。俺はこの枕をSちゃんやと思うて寝るぞ。」
「よだれ垂らすなや~。」
「あほう、なんでお前はそうロマンチックやないがな?そういう男は女にもてんぞ!」
「まあ、俺の彼女はドラムやきねえ~。」 などと、ドラムのN田君が言っている。
こんな風に僕達は
、“Aさんがいい”だの
“Bちゃんが可愛い”だの、“
告白するにはどういう設定が良いのか?”とか
、“どんなデートをするのがベストか?”など、実にたわいもない事を、真剣に明け方まで話していたのだ。
そんな真夜中に、このての話をあんまりしないベースのY川君が
「おい~。外見てみいや~。星がすっごいきれいなぞ~。」 と言って、窓を全開にして、皆で眺めた夜空は、本当に見事であった。
手が届きそうな所に無数の星がちりばめられた夜空があり、その中から1~2分ごとに流れ星が落ちてくるのだ。
K藤君が、
「おいI川、こういう所でSに告白をせんといかんわや。」
「そうやにゃ~。なんで男ばっかり5人で流れ星に願い事せないかんがなや?。けんど、冗談ぬきで、まっこときれいやにゃ~。」 と、皆で暫く夜空を眺めていた事を思い出す。
久しぶりに、レインボーの
「キル・ザ・キング」を聴くと、突然こんな事を思い出してしまったのだ。
僕は、昔聴いた曲を聴くと、その頃の風景とか会話を思い出す事が多い
。「キル・ザ・キング」もそんな1曲なのだ。
Rainbow : Kill The King[Music Rainbow]