ザ・クラッシュの「ロンドン・コーリング」で反省した傲慢な音楽の聴き方の話。
僕の大学生活は1982年の4月にスタートした。前回の昔話で記事にしたように、僕はゴールデンウィーク明けに学内の「M」という音楽系サークルに所属した。この頃は、このサークルに入部した新人同士が妙に仲の良かった時期で(←その後様々な内紛があり、仲が悪くなるのだが・・・。)よく学校帰りには連れ立って地元の江古田や池袋などへ飲みに行った事を覚えている。男が4人、女が3人という組み合わせの総勢7人だったが、我々男4人は男同士のような感覚で女の子達に接しており、また女の子達も割とアッケラカンとしていたので、飲んでも実に面白かった事を覚えている。
飲みながら話すのは、もっぱら音楽の事で、これまで自分が聴いてきた音楽がいかに良いモノかをそれぞれが独断的に力説する事が多く、この辺の押しつけがましい話は、酒の量が増す毎にエスカレートしていた気がするのだ。
そもそも、我々7人の音楽的な趣味は全く異なっていた。ドラムのI嵐君とギターのS藤君は70年代のハードロック、もう一人のギターのA木君は、カシオペア一辺倒、キーボードのS木嬢とギターのK瀬嬢は、流行りの洋楽やニューミュージック、もう一人のキーボードのM川嬢に至っては、パンク・ロックが好きだった。その上ベースの僕が、
「ジャズやフュージョン系の音楽が好きですが・・・何か?」
なんて事を言い始めると、話が合うはずがなかったのだ。そして、この2年後に内紛とモメゴトの末に僕がこのサークルに見切りを付ける原因となるのが、この辺の音楽的な趣味の違いなのだが、その話はまた後で書きたいと思っている。
話がそれたので元に戻すが、この日も我々1回生数人は池袋の居酒屋で酔っ払っていた事を覚えている。僕の隣の席にはキーボードのM川嬢が座っていた。前出のように、M川嬢の音楽の趣味はパンク・ロックという事もあって、彼女はレザーっぽい黒の上着にミニスカートを履いて、髪は全体的に短くトサカのように立っており、メンソールのタバコを吹かしていた。これで顔が怖かったら、あまりお近づきになりたくないタイプなのだが、M川嬢は細身で目がパッチリした可愛らしい子だったので、そういうファッションをしても、それなりに似合っていたように記憶している。
一方僕の方は花柄のプリントシャツにオヤジが休日にゴルフに出掛けるようなパンツを履いた当時流行りのサーファーファッションで、どう見ても接点が無い2人が並んで話し込んでいた訳で、今考えると、これはかなり異様な光景だったと思うのだ。僕は、
「こいつの髪の毛、俺より短いぞ・・・。それに、このピアスは痛そうじゃ・・・。」
なんて事をボンヤリ考えながら、酎ハイ片手に彼女が話すパンク系のミュージシャンの話を聞いていた事を覚えている。
さて当時の僕は、パンク系の音楽といえばセックス・ピストルズを聴いた事あるぐらいで、あのヘタクソとしか言い様のない演奏とライブの映像を見て、
「こいつらアホちゃうか?」
くらいにしか思っていなかった。そんな調子だから、いくら彼女がパンク系の音楽の良さを強調しても、あのファッションや暴力的なイメージが頭から離れず、彼女の力説するパンクの面白さは全然理解出来なかったのだ。
僕が酔って、
「パンクと言えば、セックス・ピストルズだなぁ~。」
なんて事を言うと、M川嬢は、
「はあ?あんなのイモよ!イモ!あんなの聴いてイイと思う訳?バカじゃないの?信じられない!」
と酔いが回っているせいか、少々絡み気味に話し始めたので、慌てた僕が、
「ていうか俺は、あれしか聴いた事が無いわけよ。他は知らないの!わかる?」
そう言うと、彼女は、
「あのねぇK本君。(←オヤジの本名です。)私が好きな音楽が、あんなイモバンドだと思われると心外だから、明日部室においで、凄いアルバム貸すから!分かった?」
そう言ったのだ。
で、借りたアルバムがザ・クラッシュの2枚組アルバム「ロンドン・コーリング」だった。M川嬢は、
「このアルバムを聴いてごらんよ。パンクとは言っても、こういう凄い音楽もあるんだから。特に1曲目のロンドン・コーリングは名曲だと思うから、きちんと聴いてね。よろしく!」
なんて、前日の絡み調子とは一転、可愛らしくLPを差し出したのだ。
早速、僕はアパートに帰ってこのアルバムをダビングしながら聴いてみたのだが、その時の正直な感想は、
「一体コレの何処が凄いのだ・・・?」
だった。
まぁ、当時は聴いている音楽の7割はフュージョンで、残りの3割にニューミュージックや、流行りの洋楽やロックや歌謡曲がひしめいていた訳で、最初っから僕の方に「ロンドン・コーリング」を真面目に聴こうという姿勢が無かった事が原因だと思うのだが、ロクに聴きもしないでジャケットを眺めて、
「こんな皮ジャン着て、暴れるバンドはオシャレじゃないなぁ~。ガキの音楽よ。」
そんな事を考えてしまったのだ。
結局この時ダビングしたテープは、2度と聴く事はなく、そのままお蔵入りになってしまった。そして25年以上の時を経て、今から3年ほど前に僕の前にカビだらけで出てきたのだ。僕は、このカビだらけのテープを見てM川嬢との一連のやりとりの事を思い出し、この記事を書いた訳なので、とりあえずは「ロンドン・コーリング」を聴いてみる事にした。
当時はパンク・ロックに対する先入観と、このジャケットから受ける印象で聴く気にならなかった「ロンドン・コーリング」だが、この年齢になると、これまでにイメージだけで音楽を聴いて何回も失敗した経験があるので、今回はザ・クラッシュの事を事前にネットで下調べした上で、TUTAYAでレンタルし、純粋な気持ちで聴いてみるように心掛けた。で、
「どうだったか?」
というと、当時の自分の傲慢さと間違いに気が付いたのだ。
アルバム「ロンドン・コーリング」は、それぞれの曲がバラエティーに富んでクオリティーが非常に高く、ザ・クラッシュというバンドのミュージシャンとしての能力が素晴らしいという事がすぐに分かるのだ。その上、全体を一つの作品として捉えても、申し分のないアルバムだと思うのだ。
今考えると、M川嬢が言った「凄いアルバム」の意味は、
「純粋に音楽的に凄いという意味で、決して『凄く暴力的だ』とか、『バンドのファッションが凄い』なんて馬鹿な話じゃないんだ・・・。」
という事が25年以上経って分かったのだ。
当時僕は、
「パンクなんて喧しい音楽が好きなんて、M川嬢もガキだよな~。」
なんて思っていたが、実際には、僕の方が本当の事が分かっていない傲慢なガキで、純粋に音楽を聴く事が出来なかったと言う事に気付かされたのだ。
今夜は、
「今頃そんな事がわかったの?バカ!」
って、M川嬢が夢に出てきて怒られそうな気がして恐ろしいのだ。でも、
「久しぶりにM川嬢に会いたいよな~。今なら、もっと真面目に彼女の話を聞くのに・・・。」
そんな事を考えている。
[Music The Clash]
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ミルト・ジャクソン・クインテットの「ザッツ・ザ・ウェイ・イット・イズ」を聴いてみた。

「へ~っ」
なんて言いながら眺めていた。
女房は嬉しそうに、
「このお雛様は、私が子供の頃に上野の松坂屋で買ってもらったのよ!」
などと言っていたのだが、
「お父さん、それにしても、もうちょっと雛祭りっぽい音楽は無いものかね?」
なんて言われて、オヤジはギクっとしてしまったのだ。
僕の書斎から聴こえていたのは、ミルト・ジャクソンの「ザッツ・ザ・ウェイ・イット・イズ」だ。
「そうは言っても、雛祭りに合うようなCDは俺、持ってないぞ!そもそも、雛祭りに合う曲とはどんな曲じゃ?」
そう言いながら、ゴソゴソとコーヒー片手に書斎へ引き返したのだ。
さて、「ザッツ・ザ・ウェイ・イット・イズ」だが、一曲目の「フランキー・アンド・ジョニー」からソウルフルでブルージーな世界が展開する。ライブ独特の客のざわめきの中から聴こえてくるレイ・ブラウンのベースが実にカッコイイ。そして、後半のミルト・ジャクソンのアドリブは、もうまっ黒。何ともゾクゾクするのだ。
「雛祭りには全然関係ないけど、何となく豪華な雰囲気でいいじゃない~。」
そう思った事だ。
このアルバム、大好きです。
[Music Milt Jackson]
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デイヴィッド・リー・ロスの「イート・エム・アンド・スマイル」を聴いてみた。

先週、デイヴィッド・リー・ロスのアルバム「イート・エム・アンド・スマイル」を聴いていて、この吉本新喜劇の事を思い出した。
「全然関係ないだろう!」
と思うかもしれないが、僕は彼がヴァン・ヘイレンでデビューした頃から絶対アホだと思っているのだ。それも、吉本新喜劇に出てくるような能天気で、妙に陽気なアホだと・・・。
まぁ、オヤジの勝手な思い込みはこの辺にしておいて、このド派手なジャケットのアルバムの中身には驚く。なんせ、スティーヴ・ヴァイとビリー・シーンの超テクニシャン2人組が、アホなデイヴを後ろからガンガン煽り立てる。
「煽られたデイヴのボーカルは?」
と言うと、これはもうメチャクチャ明るい。底抜けな明るさから、アホパワーが爆発しているように感じるのだ。
もうすぐ桜が咲き始める季節。こういう能天気で明るいアルバムは、春先にはちょうどイイと思っている。
[Music David Lee Roth]
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