「アドリブの人」への憧れ
さて、今回思い出したのは、モダンジャズを聴き始めた頃から現在まで感じ続けている1人の天才への憧れの話だ。
僕の聴く音楽がモダンジャズが中心となってきたのは、30歳になる少し前の頃で、長男が生まれて間もない頃とダブっている。当時は東京で働いていたが、1カ月の内、10日以上が地方への出張の生活で、新幹線や飛行機での移動中や、仕事が終ってビジネスホテルでくつろいでいる時などに、CDウォークマンでモダンジャズをよく聴いたものだ。
そもそも、僕がモダンジャズを聴くようになったきっかけは、ある雑誌の記事で、ジャズ評論家の後藤雅洋氏が、
「ジャズ初心者に、モダンジャズを分からせる一番簡単な方法は、「チャーリー・パーカー」を徹底的に聴かせればいい。それで好きにならないなら、モダンジャズは絶対分からない云々。」
という内容の記事がきっかけだった。

「ここら辺で、ちょっと真面目にジャズでも聴いてみるかね~?また楽しみが増えるかもしれん。」
当時、そんな簡単な気持ちで、後藤雅洋氏が“徹底的に聴け!”というチャーリー・パーカーの超有名アルバム、「チャーリー・パーカー・ストーリー・オン・ダイアルVOL1」、「オン・サヴォイ~マスター・テイクス」、「バード~オリジナル・レコーディング・オブ・チャーリー・パーカー」を比較的短期間に購入していった事を覚えている。
で、別に徹底的に聴いた訳ではないけれど、この3枚のアルバムは僕にチャーリー・パーカーに対する他のミュージシャンとは少し異なる憧れを抱かせた。

「チャーリー・パーカーは、アドリブの人だ!」
という事。アドリブへの強いこだわりは、
「曲の中心はあくまでも自らのインプロヴィゼーションで、他にはあまり興味がない。」
そんな印象さえ受ける。
それだけに、パーカーの生み出すアドリブはものすごい。
こんな表現をすると、3流の音楽評論家の決まり文句みたいで嫌なのだが、
「フレーズが次から次へと魔法のように湧き出てきては、空の彼方へ消えてゆく。まるで、鼻歌みたいに楽器を自由に鳴らしている。」
そんな感じがするのだ。(←文才がなくて、こういう表現しかできないので、しょうがない・・・・。かっこ悪いなぁ~。)

「どうじゃ~。俺にもっと吹かせろ~。滑らかじゃろ~、気持ちええじゃろ~。おらおら~、まだまだ吹くぞ~。」
なんて叫び、とめどもなく湧いて出てくるフレーズを惜しみなくぶちまけている気がする。それでいて、
「嫌いな奴は、聴かんでもええわい!」
と誰にも媚びない。
僕は、
「天才とは、こういうオッサンの事を言うのやね~。なんで、こんなにフレーズがアホみたいに出てくるんじゃろ・・・?才能あふれるという事は、ほんとにすごい事じゃ。」
と、パーカーの音楽に驚くと共に、強い憧れを持つようになった。
その後、色々なジャズミュージシャンのアドリブを聴いてきたけれど、パーカーほど苦もなく次々にフレーズを生み出す感のあるミュージシャンはいないと感じる。
パーカー以外のミュージシャンはアドリブを生み出すのに、若干ではあっても、“苦悩”とか“緊張”とかを感じてしまうが、パーカーだけは、一瞬のひらめきがそのままの形で、次から次へとアルトから噴き出てくる気がしてならない。脳味噌と口と楽器と指が音楽用の回路で繋がっているとしか思えないのだ。
僕は様々なミュージシャンに憧れを持っているがパーカーに対する憧れは、”楽器が上手くて憧れる”とか“フレーズがカッコ良くて憧れる”なんて言う事ではなく、“本当の天才への憧れ”で、例えて言うなら、超人的な力を持つ宇宙人が回りに畏怖の念を抱かせる事への憧れに似ている。
僕の中でのチャーリー・パーカーは一連のミュージシャンとは全然違う所に存在する一人の天才なのである。
Charlie Parker: Celerity
[Music Charlie Parker]
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Category: 憧れの巨匠話 | Comment(0) | Trackback(0) | top↑ |