平山三紀の「真夏の出来事」で思い出すマニアックな友人の話。
浪人生活というのは、基本的に実につまらないものだ。予備校に通いながら勉強しなくてはならないのは当然なのだが、日々同じ事の繰り返しで、生活に全然変化がない。その上にちょっと息抜きのつもりで映画でも観ようか?なんて思っても、
「俺、浪人中だしな~。普通の人みたいに、映画観て遊んでていいのかしらん?」
なんて、妙に消極的になって、精神状態が落ち着かない。気分転換が難しいのだ。
僕の場合は、当時住んでいたのが予備校の寮だったので、ゴールデンウィークを過ぎた頃には、たくさんの友人が出来て、彼等と色々な話をする事で、自然と気分転換をしていたのだと思う。北は北海道から、南は鹿児島まで、総勢60人余りの田舎者の集まりなので、話を聞いているだけでも、面白い事がいっぱいあったのだ。
中でも、静岡県出身のS井君という男と仲良くなって、僕の聴く音楽のジャンルがまたしても広がっていった事が思い出される。
S井という男は、身長185センチの大男で、高校時代は剣道をやっていたスポーツマン。見た目も悪くなく、今で言う“イケメン”だったのだが、実は“オタク”だった。
当時“オタク”という言葉があったかどうか知らないが、彼は兄の影響で、昔のドラマやアニメ、女性アイドルなどに異常に詳しくて、その辺の事を話し始めると止まらないのだ。よく夕食後の食堂で、何人かで彼の説明する懐かしいテレビアニメの声優の話やドラマの最終回のマニアックな話を聞いて喜んでいた事を思い出す。
そんな彼から僕は1本のカセットテープを借りた。そのテープは1960年代後半から70年代前半の女性アイドルの曲がいっぱい入った120分テープで、僕が小学生の頃になんとなく耳にした記憶のある曲が、
「これでもか~!これでもか~」
という具合に、延々と続くのである。最初聴いた時に、曲のあまりの古さと音の悪さに、S井君に、
「なんやこれは・・・。お前、ホントに変わり者やなあ~。こんなん聴いて面白いんか?」
と言うと、S井君は、
「兄貴の影響さ。うちの兄貴は小学校の頃から歌謡曲マニアで、俺は幼稚園の頃から一緒にこんなのばっかり聴いてたんだよ。俺の実家にはこの辺のシングルレコードが山ほどあるぜ!」
などと言っていた。
さて、S井君に変わり者だと言いながらも、他に聴くテープを持っていなかった僕は、寮の部屋でこのカセットテープを時々流していた。S井君は、このような懐かしのアイドル曲を収めたテープを5~6本所有しており、僕はこれらを順番に借りて、聴いてゆくうちに、頭の中がナツメロ歌謡曲でいっぱいになってしまった。
今思い出すだけでも、青江三奈「伊勢佐木町ブルース」、奥村チヨ「恋の奴隷」、 黛ジュン「天使の誘惑」、 いしだあゆみ「ブルー・ライト・ヨコハマ」、 藤圭子「夢は夜ひらく」、 南沙織「17才」、 欧陽菲菲「雨の御堂筋」・・・・とまあ、挙げ始めるときりがない。そのうち、S井君との会話は、
「やっぱ、いしだあゆみの『ブルー・ライト・ヨコハマ』は名曲だな。大学に合格したらブルー・ライトな横浜へ酒でも飲みに行こうじゃないか!わはははは~!」
なんて風になっていった。
そんな会話の中でも、S井君の一押しの曲が平山三紀の「真夏の出来事」だった。S井君は、
「この曲は名曲だぜ~。ブルーライト以上だよ。それに、平山三紀は色っぽいぜ~。『真夏の出来事』の写真なんか、たまんねぇ~よ。」
などと、言っていたが、僕はその時は平山三紀の顔は全く知らなかった。ただ、S井君の言う通り、「真夏の出来事」という曲は、なんとなくポップで垢ぬけた名曲だと感じていて、気に入ってよく部屋で流していたのだ。
その後、僕が初めて「真夏の出来事」のジャケットを見たのは、大学生も後半、タモリがやっていた深夜番組の「タモリ倶楽部」の「廃盤アワー」のコーナーだった。テレビを見ていて曲が流れた瞬間に、
「アッ!」
と思ったのだが、一瞬何故自分が驚いたのかが分からなくて、その後ジワジワと浪人していた頃の記憶が蘇ってきた思い出がある。そして、S井君の顔が浮かんで来て、
「なるほど・・・。S井の言っていた通り、平山三紀は色っぽいなぁ・・・・。」
と思った事だった。
時代が前後するが、浪人生活がスタートしたばかりの頃、僕はS井君という不思議な友人と仲良くなった事で、それまで聴こうとも思わなかった音楽のジャンルを短期間に集中的に聴いた。単純に、
「音に飢えていた。」
と言えばそれまでだが、これはこれで貴重な経験だったと思うのだ。
今でも「懐かしのメロディー」のようなテレビ番組があると、リアルタイムで経験した訳ではないのに、やたらと知ってる曲が出て来て、女房に、
「あなた、よくこんな古い曲を知ってるわね~。」
と呆れられる事があるのだ。
僕は平山三紀の「真夏の出来事」だけでなく、女性歌手が歌う古い曲を聴くと、S井君が得意そうに説明する顔が浮かんでくる。
彼は、1年後に地元、静岡の大学に進学したので、その後会う事も無かったのだが、イケメン風のスタイルと、マニアックな話しぶりを思い出す度に、
「面白い奴だったな~」
と懐かしくなるのだ。
平山三紀 : 真夏の出来事
[Music 平山三紀]
- 関連記事
-
- 平山三紀の「真夏の出来事」で思い出すマニアックな友人の話。 (2008/08/11)
- カシオペアの「ジプシー・ウィンド」で思い出す初めてのレンタルレコードの話。 (2008/09/15)
- ステップスの「TEE BAG」を聴いて、浪人生活から脱出した話。 (2008/12/22)
平山三紀、いいですねえ。 僕もブログで取り上げた歌手やミュージシャンについてたくさん書いてらっしゃるので、嬉しくなりました。
70年代こそ音楽最良の時代だったと信じてます。
私も昔はカラオケでよく歌いました。
最近はあまり歌ってません。
相手に合わすからなんでしょうね(^^♪
>music70s様
コメントありがとうございます。
僕も70年代って大好きですね。
これからもよろしくお願いします。
>まり様
僕が女だったら、「真夏の出来事」だけでなく、
70年代の歌謡曲を歌いまくるもんな~。
いや、オヤジが歌うのもイイかもしれん。
って、キモいか・・・・。